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環境教育と情報技術

宮城教育大学 環境教育実践研究センター、鵜川義弘

 

はじめに

教育大学に環境教育コースがある意義

環境を守るということは、最終的には個々の人の行わなければいけないことが多く、その意味で教育が果たす役割は大きいものです。この意味で、教育大学において、環境教育に興味を持つ先生を育てることは、最も重要だと思います。

コンピュータの前に座ってできることはあるか?

しかし、私の専門に近い分野である情報技術(IT: Information Technology)は、環境教育、環境学習においては直接的な貢献ができるわけではありません。というのも、環境教育には、実際の体験が一番重要であり、私が専門とする「コンピュータの前に座ってできること」とは質的に大きな違いがあります。

情報技術の適用が役に立つかも

環境教育実践センターシステム分野に所属する私は、これまで、生物、環境関係のデータベースを作成することを仕事としてきました。データベース作成の目的はより多くの情報を共有し役立てるということで、このことは、様々な情報を分析する必要がある環境科学の分野の基礎を支えるものとして重要なことではないかと思っています。

全地球的な問題でもある環境問題は、特定の地域にいて全てを議論できる分野の事象ではありません。様々な自然体験を全ての児童生徒が体験できるわけではありません。Webを通じた方法でまがりなりにも自然の体験を補うことや、携帯電話を使用した新しい技術が、情報や知識の習得に関して手助けすることが可能かも知れないわけです。私は、できる限りのお手伝いをしたいという気持ちでおり、今回は、この機会に、これまでやって来たことを、ご紹介したいと思います。

支援例

学校用電子掲示板(落ち葉はゴミか)の試作

ちょうど今は落ち葉の時期です。仙台は社の都と呼ばれ、樹木が多い都市ですが、街路樹の落ち葉が道路、歩道を覆い、清掃に多くの努力がされています。落ち葉はビニール袋につめられ、焼却される運命にあります。一方で、森林の中の落ち葉は、生き物の住みかや、つぎの年のための栄養としての重要な役目を担っています。

このような中、1999年に「落ち葉はゴミか」テーマに、ある小学校で環境について考える授業が提案されました。これは、落ち葉が落ちる地域によりゴミになっていまうという矛盾を子供たちに気づかせ、自然環境を考える機会を作ろうというものです。

ちょうど、今の日本では、教科にとらわれない総合的な学習の時間"Integrated Courses"という科目が作られ、その中で自由なテーマで学習できる時間が用意されており、今回のテーマは、それに合致するよいテーマとして取り上げられました。

2000年には「落ち葉を救え」のテーマが別の小学校で企画されました。これらは、落ち葉がゴミかどうかを改めて考え、その有効活用を考え、子供たちが自然と向き合うよい機会を与えてました。

実際の授業のなかでは、自分たちで考えた内容について、広く世の中の人々に意見を問うこと、また、自分たちの考えを表明する場として、ネットワークを使うことが提案され、意見発表や、意見交換のための電子掲示板が必要とされ、環境教育実践センターではそのためのサーバの提供と技術的な支援を行いました。

環境教育実践センターでは企画の段階から現場の先生方の声を取り入れてよりよく意見交換ができるよう、試行錯誤を行いながらページの作成をしました。

当時、学校には、インターネットが引かれたばかりで、メールを使う機会もそれほど多くなかったのではないかと思います。

メールよりも使いやすいブラウザを使用する電子掲示板の使用により、遠く離れた国から意見が寄せられたり、通常は意見をもらえないかも知れない仙台市長の返事を直接もらうことができ、子供たちにとっても「自分たちの意見を世に問う」という新しい経験ができたのではないかと思います。

掲示板の説明

ごみと思うかどうかとそう思う根拠を投稿してもらう

これまでの統計

同時に書かれた根拠、コメント等を見ることができる。

一方で、電子掲示板は、一見簡単そう、取り付き易そうに見えますが、子供たちにとっては、ネットワークによる書き込みが時間順でなく、スレッド(意見の推移)をつかむことができないなどの問題があったことも確かです。

これらの電子掲示板の維持は、現場の学校ではなかなか無理な部分があり、サーバを提供することに関しては、何らかの貢献ができたのではないかと考えています。電子掲示板は、カスタマイズする部分が多く、利用したいという学校の数が増えると1研究室では対応が難しくなるのではと思います。

環境家計簿子供版の試作
Environmental Balance Sheet for Kids

日本では、環境家計簿という独自の環境を考える試みがあります。これは、電気、ガス、灯油、ガソリン等の使用量を記録し、それを二酸化炭素の排出量として計算、日常生活で使用するエネルギーを記録し減らすことで、温暖化ガスの排出量を減らそうというものです。

これまで、この計算を行うことは、表計算のソフトウエアを使う必要があったし、子供向けの教材とするには、説明が難しく、温暖化の資料も分散して存在していました。そこでこれらをまとめて授業の中で使えるように用意しました。

 

アイコンの横の枠に入力を行い計算させると二酸化炭素の排出量に換算された数値が出ます。特に、二酸化炭素の排出量が何グラム何リッターと言っても実感がわかない子供のために、ポリタンクでその量をわかるようにするなど、現場の先生方の声を取り入れて、ページの作成をしました。子供たちが計算結果のポリタンクの量で驚く声がよい思い出になっています。

過去に入力されたデータを元にグラフを書くことができる。

地球温暖化に関連した資料も用意されている。

環境教育のための地図の作成

仙台市生き物調査への協力

環境教育は、様々な問題が交錯する研究分野です。最もそれがわかるのは、位置情報を元に、様々な情報を蓄積し、重ね合わせて始めてわかる地図の分野です。

環境教育実践研究センターでは、仙台市科学館と協力し、子供たちが身近な生物を観察することで環境に関する興味を持ってもらえるよう、生き物の調査に協力してきました。

上の方が本年の調査、下にいく方が古くなっている。

仙台市カエルマップ

 

子供たちの身近な動物である、カエルを取り上げることで、環境に興味を持ってもらうのが目的です。結果は入力と同時に表示されます。2000の調査では本学が独自に作成した地図で、仙台市カエル調査を行いました。

この一連の調査は、これまでにない特徴があります。具体的には私達の政府、環境省でも生き物の調査を行っています。しかし、その調査は紙による調査だということです。子供たちが折角調査票を送り返しても、それの取りまとめが終わるのは次年度になります。そのころには、子供たちは別の学校に進学しているか、興味を失っているかも知れません。一方で、この調査は、オンライン、インターネットを使ったリヤルタイムで行われ、自分たちが見つけて来たカエルをその場で登録し、数が増えていることがわかるようになっています。

この調査にはもう一つ特徴があり、カエルであればなんでも調査するのでなく、指標となる数種類のカエルだけを選んで、それが生息するかどうかを、アズマヒキガエルBufo japonicus formosus(Eastern-Japanese Common Toad)(市街地にも住むことができる)、自然が豊かな場所にしか生息できない、カジカガエルBuergeria buergeri (Kajika Frog)の2種類のカエルを選ぶことで、地図上に、全くカエルの居ない都市部、少しは生息する市街地、自然が残る地域の区別がつくようになっています。

全国版生き物調査マップ

さてさきの取り組みは、仙台市内だけですが、これをもっと広げようという試みも行っています。

一つは、全国版のマップです。例えば桜の開花であれば、桜が咲く時期がどのように北上するのかを、政府機関が発表するのではなく、子供たちが、自分たちの学校で桜がさいた時期を公表することで、開花マップを作って行こうとするものです。以下の例では、赤とんぼの調査を行っています。

1次メッシュで80 Km、2次メッシュで10 Km、2次メッシュ内の1 Kmの単位で情報を入力できるようになっています。

フィールドワーク用マップ

逆に、より狭い地域での詳しい生き物調査、環境調査、フィールドワークに使えるものとして、青葉山マップを作成しています。こちらは、ひと目で見渡せる範囲50mのメッシュで、文字情報、写真、動画など様々なデータを入力できるようになっています。

学校用地図

学校の環境学習に使うための、学校用地図の試作も行っています。

後で、発表がある気仙沼の面瀬小学校と共同で、その地域で使うための地域のマップと、その場所にリンクをした形での掲示板の作成を行っています。これまで紹介した地図と違い、このシステムは、現場の先生方がコンテンツを作成できるようWebのクリッカブルマップを用い、掲示板も、Outlook ExpressやNetscapeで使える平易なものとしています。

このシステムのテストでは、米国ウイスコンシン州の学校からも書き込みテストが行われています。実際に画像等を貼り付けることにも成功しています。

ホームページ作成ソフトウエアで、クリッカブルマップ(Clickable Map)を編集しているところ。リンク先に電子掲示板のアドレスを書くことで地図と連動した電子掲示板を運営することができる。 

米国ウイスコンシン州のBecky Rosenbergさんの書き込みと、画像を添付したメッセージを書き込むことができる。

実体験の記録

環境研で行われている児童向けの学習活動に参加して、どのような活動が行われているかについて、体験の記録を行っているところです。

金華山フレンドシップ、青葉山の探検、仙台市西部のサル追いなど、活動に同行して、ビデオや、写真をとり、自然の記録、児童生徒の活動の記録、指導者、助言者の記録を蓄積しているところです。

おわりに

やってきた中身

ネットワークを使うコミュニケーションと情報の共有を助けること
電子掲示板、地図、環境家計簿

Webで簡単に使える教材の作成を助けること

環境家計簿、地図

評価と助言が必要性

これらの活動については、まだ始めたばかりです。実際にどの程度役にたっているか、まったく評価を受けていない状態です。この活動について、環境研の中で、個別にお話する機会も、ほとんどありませんでした。今回、世界中から専門家に集まっていただいて、これらの取り組みが、どれだけ意味があるのかについて、是非、聞いてみたいところです。むしろ、こんなところにこそ、コンピュータやネットワーク、情報の力を使えということがありましたら、お知らせください。是非、皆さんのご意見をお聞かせください。


鵜川 義弘(うがわ よしひろ)
〒980-0845宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉
宮城教育大学環境教育実践研究センター
http://edb.miyakyo-u.ac.jp/ugawa/