仙台市カエルマップの提供と市販GIS利用の問題点

鵜川義弘(宮城教育大学附属環境教育実践研究センター)

  1. はじめに
    宮城教育大学環境教育実践研究センターでは、仙台市環境局環境計画課と協力し、2000年度「インターネット生きもの(カエル)調査サーバ」の運営を行った。これは児童生徒が、調査結果をWebページ上のフォームへの入力を通じてサーバーに報告し、5分間隔で生きもの分布地図を更新、インターネット上で公開できるシステムである。
    ネットワークで情報が提供されることが多くなってきたとは言え、まだまだ印刷物での発表が多く、それを必要とする人に配られるまで時間がかかる。大規模な調査になると、調査してから少なくとも1年は結果を見ることができないが、WWWサーバに記録すると一瞬のうちに、自分自身がプロットした記録を確認することができる。
    2001年度には、全国版の地図を用意して桜前線調査、2002年度は、全国「赤とんぼ」調査を企画、実施中である。
    ここでは、環境学習におけるGIS利用の問題点について気がついたことを述べる。

    カエル調査 全国赤とんぼ調査 サクラ前線調査 仙台市科学館生き物調査

  2. これまでの経緯と開発
    1. 岩渕氏のアイデアによるカエルマップ等の生き物調査。地図作成段階から宮城教育大学が協力体制をとる(私の赴任前)。
    2. 多くの人が書き込むことができる全国版マップサーバを目指してGIS利用の検討を開始。
    3. マピオン民間の優れた地図サーバやレンタルサーバの検討
      1. 高速閲覧性と新機能。パフォーマンスを考えた「軽い」作りで利用者が増えている。携帯電話+GPSという新しいこともできている。
        1. http://itp.ne.jp/ NTTインターネットタウンページ
        2. http://www.mapion.co.jp/ マピオン
        3. http://www.mapfan.com/ マップファン
      2. 環境学習への適用は可能か。
        1. 機能の限定。ズーム範囲の指定等、一般のGISが持つ多くの機能はほとんどないが、環境学習に使う程度のことは、これでほぼOK。子供たちがプロットするためにも、コンビニやガソリンスタンド等の分かりやすい情報が入っている方が望ましい。
        2. 価格。レンタルサーバで全国版マップを目指したが、高くて導入できない。1箇所当たり6,000円または、初期費用60万円+月25万円http://www.mapion.co.jp/custom/sales/Mlight/index.html
        3. データの蓄積
          1. 単年度なら地図サーバをレンタルし情報を掲載することも可能かもしれない。しかし、学術、教育系で必要とされる情報は、前年度のデータも必要で、単年度レンタルには馴染まないし、予算継続の問題もあり難しい。
          2. 情報の閲覧が主であり、不特定多数の書き込みを前提としたサービスは想定されていない。
    4. 市販GISにも、地図やソフトの価格の等の問題。
      1. 不特定多数の利用には、ソフトや地図のライセンス料が高くなる。専用ソフトウエアの配付が必要な場合にはその価格も問題。
      2. 児童生徒用のインターフェイスはまったく別に開発する必要がある。
      3. ネットワーク利用時、同時利用時のパフォーマンスの低下。
        1. 既存GISにWebインターフェイスをつけたものが多い。イントラネットでしか使われていないのでその欠点に気がつかないのか?
          1. ネットワークが細いとデモンストレーションは見るも無残。
          2. 教室からの場合が多い多人数による同時アクセスに弱い。
      4. ネットワークがない野外での利用も考えられるがサーバがなければ使えない。
        1. CD-ROM等オフラインの利用ができる例外も未確認ながら存在するようだ。結果の配付に期待。WebView - The Internet Extension for ArcView and ArcGIS http://www.zebris.com/english/main_produkte.htm
      5. カエル調査結果地図の著作権には十分な注意が必要。
        1. 「環境学習のための地図でインターネットで公開するために」との条件で導入した市販GISで作成した地図だったが、いざ公開というところでストップ。原因は、市販地図の複雑なライセンスと導入時業者との意見の相違。著作権の問題で、過去のカエル調査以前の結果の閲覧は不能になっている。

    5. 独自に開発された、仙台市カエルマップ、全国版マップの特徴
      1. リヤルタイム性
        即時性を活かし、児童生徒が、調査結果をWebページ上のフォームへの入力を通じてサーバーに報告し、5分間隔で生きもの分布地図を更新、インターネット上で公開できるシステムである。いわゆるGISソフトウエアを使用しないで高速化、安価に。
        1. 入力メッシュを一定に。他の環境統計にも用いられている総務省統計局の基準地域メッシュの利用。
          1. 南端緯度(分を含む)の15倍、西端経度下2桁から計算されるメッシュコード
          2. 2次メッシュ( 10Km四方)の地図の中から1Kmの3次メッシュまで記録できるように作成。
          3. 環境省自然環境局生物多様性センターのページ
            環境省生物多様性センター
            http://www.biodic.go.jp/kiso/col_mesh.html
        2. 高速に。あらかじめ地図を作っておき、それをWebで提供。GISの専門家には「あれは紙芝居」と酷評された。
        3. 地図を安く。国土地理院の地図を分割して利用。公的機関として利用許諾を取る。
          全国赤とんぼ調査入力 1次メッシュ 2次メッシュ
      2. 環境学習専用の対応
        1. 子供向けのインターフェイス。
        2. 調査項目数を絞る(アズマヒキガエルとカジカガエル、ツバメとイワツバメ)
        3. 誤りのデータの混入(専門家によるものとの分離)

          カエル調査 調査するカエルの種類 調査項目

      3. 調査結果を含め、全てを公開。

  3. 現状の問題点と将来の期待
    1. 現在計画中の地図サーバ
      1. マルチレイヤー化
        地理的情報は、他の情報と重ね合わせてはじめて理解できるという特徴がある。例えば、環境学習の分野でも、多くの地理的情報を複合的に観察し新しい知見を得るが、そのためには、それぞれの調査が同一の地図上にプロットされていなければならない。紅葉前線の南下の様子、セミの鳴き始めの時期、鳥の渡りの報告等、時々刻々変化する情報等のプロット、データベース化とそれらの全文検索を実現したい。
      2. 電子掲示板型入力の問題点。
        1. ネットワークがなければ書き込みができない。野外で利用することが多いのだから後でメールで送ることもある。このためには検索自体はオフライン(CD−ROM等)でできる必要がある。
        2. サーバには何でも書き込みたい。決められた項目だけでなく、現地から写真やビデオを送付可能に。将来的には、双方向端末を用いて、わからない植物の写真を撮り、専門家がその質問に答えることができるようにしたい。
        3. このためにはまず添付書類で写真、動画を送れる電子メール等で情報を受け付けられるようなものとしたい。
    2. 環境学習現場でGISの利用が進まない一般的な理由として考えられるものはあるか?
      1. 地理的情報を入力するには個別の入力現場で、高価なGISといわれる地図ソフトを購入しなければいけない。
      2. ソフトだけでなく対応する地図データも購入しなければならない。
      3. ソフト間に互換性がないため、他のソフトを使った人々と情報を共有できない。
      4. 情報を蓄積し、データベースや教材を作っても、地図の著作権、ソフトの著作権の問題から、それらを公表、配付することができない。
      5. 入力メッシュが統一されていないなど、入力方法に関する標準的方法が提示されていない。
      6. 民間の優れた地図サーバのような教育現場用のサーバを運営する者がいない。教師同士が素材データを共有できる場がない。国は?。
      7. 市販GISは高機能過ぎる。これが扱える児童生徒はいない。

    3. 他のより先進的な研究者に期待
      1. GISのデータやサーバが作った人の自己満足に終わっていないか。
      2. 学校で使えるものを。
      3. 最初から公開できるデータを集めることが重要。地図やデータは、著作権をクリアしてから。
      4. 環境学習分野では、多くの情報の収集、蓄積が必要。そのため、より多くの人が参照でき、情報の蓄積ができるよう公開されたデータベースとして利用できなければならない。研究論文では、印刷し、他の人が見て、追試ができて、はじめて研究をしていることが認められる。公開することで他の人からのコメントも得られる。卓上、秘蔵のGISに終わらせてはならない。
    4. 公的機関の地図に期待
      1. 公的機関は地図そのものをインターネットで提供したり、インターネットで情報を蓄積できるようにはなっていない。
      2. なぜ、日本は公的機関が作った地図が有料なのか?
        1. 地図販売を行う外郭団体
        2. 税金で作った地図は、無償で公開すべき。
      3. GISアクションプログラム2002-2005の概要
        国土交通省は「2002年度待つまでに数値地図25000を、2005年度までに20万分の1等の小縮尺の電子地図をインターネットにより提供する。...また、数値地図2500、数値地図25000、国土数値情報については、2003年度から、一般利用者がインターネット上で手軽に閲覧等できるようにする。」http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha02/02/020220/1_.pdf
      4. 公的機関と民間との違いはどこにおくべきか。一般が自由に加工、利用できるように素材を提供すべき。


東京大学空間情報科学研究センター「GISで環境学習!」シンポジウム
http://www.gisa.t.u-tokyo.ac.jp/docs/event-j.html (2002年7月13日13:00−18:00東京大学農学部弥生講堂にて開催)の予稿


鵜川 義弘(うがわ よしひろ)
〒980-0845宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉
宮城教育大学環境教育実践研究センター
http://edb.miyakyo-u.ac.jp/ugawa/